「兜」-1          

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1、はじめに
「わあ、カボチャみたい!」 家に来るお客が兜を見て、まず、そして必ず上げる第一声です。大人も子供も問わずですからよほど「カボチャ」に似ているのでしょう。ところがこの「カボチャ君」は、サボテン界ではちょっとした人気者ですから驚きです。誰もが数本は栽培し、又、多くのマニアによって常に改良が重ねられ、これほど美しく変身した品種は他には無いでしょう。何がこれほど人々を惹き付けるのか、その魅力と共にちょいとクセあり兜の栽培について以下に述べることとします。

2、兜の魅力
何と言っても変化の多さではないでしょうか?
すべての無駄を省いた端正な姿。濃緑な肌にちりばめた白点。気品漂うアレオーレ。これらが織り成す絶妙なバランスは、重厚で、見飽きることの無い、安定した落ち着きを感じさせます。
大疣を中心に、又、白点を中心に蒐集するも良し、この種のみで温室を独占するマニアも数多く、そして、より白く、より扁平に、より大きくと実生の限りを尽くして搾出される兜は今でも進化しているようです。

3、栽培
兜の自生地はメキシコ東部。雨季は多雨で驚くほど暑い所のよう。低木が見渡す限り生い茂り、それらの木の密度が薄くなった所で、ちょっとした木の陰や岩陰など、比較的日差しの弱い場所に生えているものが多く、保水力の有る泥質の土壌に体を3分の2位埋め、直根を長く伸ばして成長していると聞きます。これらを参考に

(1)、用土
自生地の環境を限られた鉢の中で作る訳ですから、栽培の中で一番難しいのがこの用土ではないでしょうか。
保水性のある土を使用し、かと言ってあまり多湿にならない工夫、すなわち排水性が重要となります。
保水には赤玉土を主体にした物が非常に良好でです。砂ばかりで植えた兜の根は細くもろいものですが、赤玉土主体の用土は太い根がまっすぐ下に伸びて行きます。
次に排水を良くするために、微塵(粉状から微細粒)を取り去り粒を揃えます。名人と言われる人達は必ず微塵を抜いていますので参考にして下さい。こうすることに潅水過多による根腐れは無くなりますが、逆に乾燥しやすいものとなりますので各自の潅水ペースに合わせた調整が必要です。
何はともあれ私の使用している用度を紹介しますと、表1のとおりです。

表1

材料名 容積配合割合
赤玉土
軽石
日向土
バーミュキライト
炭or燻炭
ピート

材料はピート以外、近辺の園芸店で手に入ります。配合の割合の数字は同じ容器の杯数を示します。
そして、表2のとおり用途別に粒径を揃えて3種類の用土を作っています。

表2

用途 粒径
@子苗・実生用 1.0〜1.5mm
A中苗用 1.5〜3.0mm
B大苗用 3.0〜5.0mm前後

主体となる赤玉土は中粒のできるだけ硬質のものを選びますが、結構粉分が多く事前にフルイにかけて@ABを作ります。尚、@が沢山必要な場合は、赤玉土の小粒が入った「芝の目土」が便利です。
軽石は、「カガライト」がサイズ別にあり重宝しましたが、最近、品が焼いた軽石に変わって@用が無くなってしまいました。
日向土は、園芸店の茶色の袋が最小粒ですのでこれをABに使用します。
バーミュキライトは、保水と軽量化のため、ABに入れています。
炭or燻炭は、有効微生物が住み着き発根を促すようで、兜に限らずマミラリアでも効果が確認されています。園芸用に粉状の物とか木炭屑が売られていますので粒径にこだわらず混入しています。又、消炭を自分で作るのも一法で、これを鉢底に敷くのも良いようです。
ピートは、山城愛仙園のペレットが用途別に出来ていますので便利です。今のところ、肥料当たりも無く、まあまあの生育を示していますが非常に高価な点が問題です。尚、@用は結果的に赤玉土とピートだけになり、これでも充分ですが他の細粒が手に入れば混入するようにします。以上が基本的な用土と成りますが、このうち、赤玉土、ピート、炭以外は1、2品抜けても、又、桐生砂、鹿沼土を入れても大した違いは無く、配合割合もこれにこだわる必要は有りません。要は、砂のように間隙に水を含むのでは無く、土自体が水を吸収し余分な水分は流し去る事がたいせつです。

(2)鉢
美観上は、陶器の背の低い観音鉢、万年青(おもと)鉢が良く似合います。少し高価になりますが、これが京楽焼なら申し分ありません。しかし、栽培上は、黒色のプラスチック製ラン鉢をお勧めします。通気が悪いため敬遠されがちですが前項の用土を用いれば何等問題はありません。むしろ、鉢が温まる点においてはこれに勝るものはありません。兜に限らずサボテンの根の伸長には、地温の上昇が欠かせません。鉢がチンチンになるほど暖めてやる事が必要で黒色のプラスチック鉢はこの点、理想的です。そして尚、鉢と鉢の間隔をあけ、充分に日が当たるよう心掛けることも大切です。

(3)植え替え
4号(12cm)鉢以下は必ず毎年植え替えをします。それ以上は2年に1回でも構いません。
方法は、鉢底をゴロ土で塞ぎ大苗用の土で均し、鶏糞(完熟袋を1年間そのまま放置後使用)を底肥として適量入れて植え込みます。鉢の表面は化粧砂や大粒の土を敷くと潅水時に土が飛ばないで済みます。少し深めに植え込むと重量感あふれる姿となりますのでお試しください。植え替えの適期は経験上、4月中旬〜7月です。この時期の植え替えにまず失敗はありません。兜の根が動くのには40℃位の高温(夜間は15℃くらい)が必要で3月ではまだこの高温を得られません。兜は2月下旬から花を上げてきますので動いているのかと思い、他のサボテンと同様、春早く植え替えますと、低温と多湿で赤腐れ病(根に赤い色の腐りが入る)にかかり、昔はよく失敗したものです。7月までとしたのは、冬までに充分根張りさせ、兜の致命的な欠陥である”腰折れ”を予防するためです。一度腰折れさせたものは春に戻ることもありますが冬になれば又折れ、治ることはありませんので根張りを考慮した管理が必要です。
根の整理については、根際の土を良く落とし、細かい根を手で取り、太い根は球体から2〜3cmのところをカミソリ(回復が早いため)で切断し、1週間位乾燥させてから植え付けます。切断後に注意することは、根の断面に赤腐れ病の赤い点が無いか確認することです。この赤点、古いものは途中で止まっている場合もありますが、進行中(点を中心に浸潤している)のものが少しでもあれば無くなるまでどんどん切断します。運悪く球体まで入っている場合はもう駄目ですが、生長点付近が健全なら接木で助かる場合もあります。現在、この根の整理方法には、前述の他に次の2通りがあります。ひとつは関東流の根際でバッサリ型。2月中旬に抜き上げて切り出しナイフで根本よりバッサリ切り落とし、家の中で乾燥させ3月中旬に植え込むやり方。この方法にしてから腐りが減ったとか。ただし、湿度が上がる温室とその湿度を管理出来る事が条件です。
もうひとつは、直根を切らない方法。わかりやすく言えば抜き上げた時、周りの土をバラバラと落とし1日ほど乾燥させ、そのまま一回り大きな鉢に植え込むやり方。まったく正反対で一長一短があるのですが、どちらもうまく育っていますのでケースバイケースで参考にすれば良いと思います。

(4)潅水
兜は水が大好きです。常に用土が湿っている方が成績が良く、生長期の4月〜10月は3日に1度の割で頭からジャンジャン与えます。冬の休眠期でも2週間に1度は与えます。完全に水を切ることは兜の生理上良くなく腰折れの要因とさえなります。陽当たりと根張りさえ良ければ寒さなどへっちゃらです。

(5)遮光
兜の置き場所は温室南側が指定席です。そして、かなり強い日差しにも耐えますが、本来やわらかな陽光を好みますので寒冷紗等で調整してやります。この目安は日差しの1番きつい夏場で、外側が新しい梨地ビニールの場合、黒色寒冷紗(遮光率50%)1枚位でしょうか。温室の高さ、ビニールの劣化状態でかなり違ってきますので兜の顔色(濃緑色)を眺めながら決めるのが良いと思います。

表3  「兜」年間管理表

作業項目 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 備考
潅水 --- --- +++ *** *** *** *** *** *** *** +++ ---
凡例
*** 多・強・適期
+++ 同  中
--- 同  小
植え替え --- + * *** *** ***
遮光 +++ *** *** *** +++
採種 +++ *** *** +++ +++
実生 +++ *** *** *** +++ +++
害虫駆除 *** *** *** ***

以下 次号へ


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